2021/10/03

おじじの読書日記

先程、「特に書くことがない」という理由で、通常の(?)記事を挙げたのだけれど、やはり週に一度くらいは息抜きに、真面目じゃない話をした方が良い気が、後になってした。
たまの休日にまで皆さんも硬い話を聞きたくないでしょう。
という訳でおじじ日記に差し替えます。

しかしここ暫くは子供を観察する機会に恵まれず、本当に子供に関しては書くことがない。
だからやはり今週も「おじじ日記」にしたいと思う。


*ところで書き終わってみた所、断然息抜きにならない話になりました(笑)


この数か月ほど、懐かしい本を再読している。
どれも20年ぶりくらいの本だ。
だいたい内容は覚えているのだけれど、読み直してみると印象が違う。
これって年齢を重ねる良さだな、なんて思ったりした。
同じ本でも味わいが違うなんでお得だ。

中でもヘッセの『知と愛』という小説があるのだけれど、20年前とは全然違う感想を持った。
当時まばゆいばかりに見えた光がいかにも危うげなものに見えて、共感できなくなっていた。
と同時に、この危うい物語に惹かれた自分がその後危うい道を歩くようになったのは必然だったな、とも思った。

皆さんは渾身の小説というものを書いたことがありますか?
渾身の小説というのが、多分誰でも一冊は書けるのではないかと思うのだけれど、書くとその物語に人生を縛られる。
というか自分の人生の道筋を潜在意識は知っている(予見している)ので、それを物語にしてしまうのだ。
すべての人生は一つの道筋を持っている、ゆえにすべての人は必ず一つの物語を書くことが出来る、という訳です。
勿論、書くのは容易なことではないけれど。

しかし書かなくても自分にぴたりと来る物語に出会った場合、やはりそれが自分の人生を導くということもある。
その意味で『知と愛』は私の導き手だった。

どういう話かと言うと、人間社会の地道な暮らしにどうしても馴染むことの出来ない男が旅に旅を重ね、やがて芸術家として大成して心の境地を開くが、人生への悲観が最後には彼に追い付く。そして失意と共に、神の懐に帰ることを受け入れる、という話。

学生の頃、これこそ自分が辿りたい人生だと思った。
若い時は尖っているものです。
今になってみると、「まあまあ、落ち着きなさい。そのうち分かることもあるよ」と言いたくなる自分は、それなりに落ち着いてしまったのかな、と思わないではいられなかった。

夢に生きるということは素晴らしいのだけれど、夢に生きることは一体何によって可能になるのだろうか?
それは地道に暮らしている全ての人の営みによって、なのだ。
この物語の主人公は旅人なのだが、村々に立ち寄っては寝床と食事を得ている。
地道な暮らしは嫌だと言っても彼がそれに依存していたことは否定できない事実。
最後に彼は大いなるものへと精神において帰還し、作品を通してそれは「母性」であるとはっきり書かれている。

しかし母性というのは、まさに地道な暮らしの基ではないだろうか。
だから冷徹に論理的に言えば、彼は母性が生み出す地道な暮らしを嫌がりながら、最後には母性が生み出す魂の充足を得た…となると、一体この男は生涯をかけて何をしていたのだとう、と思えてくる。
実際確かにそのような孤独な遍歴を通して彼は芸術家となり優れた彫刻作品を遺すのだけれども、それさえ意味のあることではなかったということを、誰よりこの主人公自身が認めている。
ただ、だからこういう人生が失敗や破綻だった、と言いたい訳ではない。
だいたい芸術家はその作品を愛でる人を幸せにするだけで本人は不幸である。

私の捉え方が変わったのは一つには加齢があると思うけれど、やはりそのような生き方は所詮非常に特殊なものなのだということを理解したからかもしれない。
私の自意識は鋭い芸術家から穏健な生活者に変わってきたきたのかもしれない。
それが成長なのか後退なのかは分からない。

多大な影響を文学作品から受けた後、私は歴史を沢山学んでいく中で、人と人が繋がりあって暮らす共同体の大切さをよくよく理解するようになった。
共同体の中に入っていこうとすること、そして共同体の中で貢献しようと努力することそのものが、人間にとって本質的に価値のあることだと思うようになった。
共同体の中に入ろうとせず、その外側で自分の心を見つめ理想を追い続けることは、勿論人間の在り方の一つではあるのだけれど、それ自体はどうしても失意に終わってしまう。

しかし同時に、人というのは本当に色々で、こういう例外的な夢追い人がいることで、いてくれることで、全体が成り立っているということもある。
20年ぶりに再読して、「ああ、自分はこっちに歩いてきたのか」と分かった気がした。「でも自分はこっちではなかったのかな」とも思うし、また「いや、このまま更に進んでいくべきだろう。あの頃より霧は一層深くなっているものの」とも思う。

ともかく、辿ってきた道を振り返れたというのは新鮮な体験だった。

皆さんは『知と愛』を読んだことがありますか?
読んだことのある人は是非あなたはどう思うか教えて下さ。。


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